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美術解剖学 #2 胴体・正面の層

#ArtisticAnatomy#Drawing#Art
美術解剖学 #2 胴体・正面の層

このノートでは胴体正面の主要な筋肉の層の重なりを扱います。

前回は胴体の主要な筋肉を一つずつ、起始と停止を記録しながら見ていきました。しかし描くときに本当に必要なのは筋肉の一覧ではなく、順序です。どれが下にあり、どれが上を覆い、境界でどちらがどちらに乗っているのか。個々の筋肉が正しくても、層の順序を逆に描けば形はその場で崩れます。

空の骨格から始めます。ここで描いている骨格は厳密ではなく、位置の参照としてのみ使います。必要な骨のランドマークはわずかです。鎖骨、胸骨、胸郭の下縁、上前腸骨棘、上腕骨。すべての筋肉はそこに掛かります。

層の順序

正面は深い側から浅い側へ、四層にまとめられます。

  1. 骨に接する層 —— 前鋸筋、外腹斜筋。肋骨の上に直接生え、以降すべての土台になります。
  2. つなぐ層 —— 腹直筋。胸郭下縁から恥骨までの空白を埋めます。
  3. 覆う層 —— 大胸筋、広背筋。大胸筋が上から前鋸筋の上半を、広背筋が側後方から回り込んで下半を覆います。
  4. 外側の層 —— 三角筋、僧帽筋。肩をまたぎ、上腕骨へ集まるものをすべて隠します。

この順に積めば、境界の関係を描き間違えません。以下、層ごとに見ていきます。

前鋸筋

  1. 前鋸筋は肋骨の上にあり、後ろから前へ、1 本単位で肋骨を包むものと近似できます。
  2. 前鋸筋を伸ばしすぎないこと。正面から見ると前鋸筋は体の側面にあり、中央寄りに鋸歯が現れることはありません。
  3. 一般に、体表で鋸歯の線がはっきり見えるのは、痩せた人か筋肉が発達した人に限られます。

ここでよくある誤りは、鋸歯を全部描いてしまうことです。前鋸筋は上位 8〜9 肋骨から起こりますが、上のほうは大胸筋と広背筋に覆われるため、体表で見えるのはたいてい下の 3〜4 本だけです。多く描くと胸郭が広く見えすぎます。

また鋸歯の向きは後上方への斜めです。最終的にすべてが肩甲骨の内側縁へ収束するためです。水平に描くと肋骨に見えてしまいます。

外腹斜筋

斜めに走り、前鋸筋と組み合います。

この組み合わせが、正面でもっとも曖昧になりやすい箇所です。前鋸筋の歯は前下方を、外腹斜筋の歯は前上方を向き、両者は体側でファスナーのように噛み合います。この噛み合いの向きを覚えておけば、体側が一塊のぼんやりした形になることはありません。

外腹斜筋は下位 8 肋骨から起こり、腸骨稜に停止します。上前腸骨棘の上ではっきりした斜めの塊を作ります。腰の横に見える逆 V 字は、これと腹直筋の境目です。

腹直筋

へそは第 3 節と第 4 節が接するあたりにあります。筋肉の傾き、角度、湾曲に注意してください。

描くときに気をつけたい点をいくつか。

  • 腹直筋は平らな板ではありません。中央が高く両側が低く、横方向に湾曲しており、胸骨から恥骨までの全体も前へ弓なりです。平らに描くと体積がなくなります。
  • 四つの区画は幅も高さも等しくありません。下へ行くほど狭くなり、最下段がもっとも長い。四つの等しい四角に分けるのが、いちばん多い誤りです。
  • それらを分ける腱画は直線ではなく、わずかに上へ弓なりです。左右の腱画は必ずしも揃いません
  • 白線は胸骨の下から恥骨まで走り、へそより下では次第に消えます。外腹斜筋とは組み合わず、境界はきれいです。

大胸筋

大胸筋は 3 つの部分に分けられます。第一は三角形で、一辺が鎖骨の半分、対応する点が上腕骨上にあります。第二は一辺が胸骨上にあり、その点も上腕骨上で、前の点よりやや上になります。第三は図に示すとおりで、言葉で表しにくい形です。

三つの束の上腕骨上の停止は重なっており、しかも順序は逆です。鎖骨部がいちばん下、胸肋部が中間、腹部がいちばん上に着きます。腕を上げたとき腋窩の前縁がねじれるのはこのためで、停止部で線維が交差しています。三角筋の下なので正面からはほとんど見えませんが、腋窩前壁の形を決めています。

大胸筋を描くときもっとも多い問題は、下縁を水平に描いてしまうことです。実際には外側が高く内側が低い斜線で、外端は三角筋に切り取られます。

広背筋

広背筋は背中から回り込んでくるので、詳しくは背部の筋肉で扱います。ここでは、広背筋が前鋸筋を包み、正面から見える部分は大胸筋の下にある、と分かっていれば十分です。

一文でいえば、広背筋は腋窩の後縁を決めます。腕を下ろしているとほとんど見えませんが、上げると体側から回り込んでくる明瞭な斜辺が見えます。広背筋が発達した人では、この辺が胴体の外形全体を押し広げます。いわゆる逆三角形の体型は、広背筋と三角筋が一緒に作っているものです。

僧帽筋

乳様突起から起こり鎖骨の外端まで伸び、マントのように首まわりを覆います。

正面から見えるのは僧帽筋のいちばん上の一部だけです。首の側面から下り、鎖骨の外側 1/3 に着きます。胸鎖乳突筋とのあいだに作る三角形のくぼみ(鎖骨上窩)は首の付け根でもっとも重要な構造のひとつで、埋めてはいけません。

胸鎖乳突筋

厳密には首の筋肉ですが、正面から見ると胴体の上縁でもっとも目立つ形なので省けません。

耳の後ろの乳様突起から出て、下方で二束に分かれます。胸骨頭は胸骨柄に、鎖骨頭は鎖骨の内側に停止します。下端で両者は離れ、あいだに小さな三角のくぼみを残します。首をひねると胸骨頭が張った斜めの索になります。顔を振り向かせた頭部を描くとき、これがもっとも役立つ構造線です。

三角筋

三角筋は三束からなり、基本的に肩峰を前後から包み込み、停止はすべて上腕骨の外側にあります。三角筋に覆われるため、大胸筋が上腕骨のどこに集まっているかは外からは見えなくなります。

三角筋と大胸筋のあいだには三角筋胸筋溝が走ります。鎖骨の中外側から斜め下へ、三角筋の停止部付近まで下りる溝です。どんな体型にも存在し、肩でもっとも信頼できる構造線です。三角筋と大胸筋をひと続きの塊として描いてしまうと、形がほどけてしまいます。

まとめ

こうして描いてみると、正面は三つに集約されます。

  1. 前鋸筋と外腹斜筋は体側で噛み合う。歯の向きは互いに逆。
  2. 大胸筋が前鋸筋の上半を、広背筋が下半を覆い、あいだに鋸歯の帯が残る。
  3. 三角筋が上腕骨へ集まるものをすべて覆い、三角筋胸筋溝だけが残る。

次回は背面へ移ります。

このシリーズの記事

美術解剖学
  1. 01美術解剖学 #1 胴体の概観
  2. 02美術解剖学 #2 胴体・正面の層
  3. 03美術解剖学 #3 胴体・背面の層
  4. 04美術解剖学 #4 上肢
  5. 05美術解剖学 #5 下肢